旅するクルマ|メルセデスベンツ・トランスポーターT1 310D

クルマとバイク

国境を跨ぎながら大陸を移動する欧米の「バンライフ」は、月単位・年単位で旅を楽しむ「フルタイムトラベラー」たちによる、壮大な「クルマ旅」だ。仮に定職を持っていたとしても、長期的な休暇を自由に取得することができる「労働環境」があり、地繋がりで何千キロも移動できるという「地理環境」があってこそ、この自由な生き方・暮らし方は成立する。残念ながら日本ではこうした環境を手に入れることは難しいが、それでも欧米発の自由な「クルマ旅」を少しでも楽しむべく、本格的に車両を製作したオーナーがいる。1年がかりで完成させた、「旅するクルマ」の全容を本邦初公開しよう。

広く知られているように、欧米では長期のバカンス取得が一般化しており、夏休みを週単位・月単位で楽しむという人が多数を占める。有給休暇の取得は労働者の権利のひとつとして社会に根付いており、長い休みを取得することは、誰にとってもあたり前に与えられた権利の行使でしかない。

フランスでは1936年には2週間の年休が法定化され、有給休暇制度がいち早く導入された。ドイツでも1963年に連邦休暇法が制定され、以来年間24日の年休が企業に義務化されている。こうした結果、欧州の主要企業は年間30日以上の有給休暇を規定することも珍しくなくなり、今日では3 〜4週間もの長期休暇を取得するのが一般的になった。

「バンライフ」が世界的に注目されている背景には、こうした自由に長期休暇を楽しめるという労働環境も大きく影響している。

このように、「バンライフ」とは欧米に端を発したカルチャーであり、年間の有給休暇取得日数が10日程度しかない日本においては、規模や期間という面からも、なかなか実現させるのが難しいテーマである。いくつもの国境を超えてクルマで旅を楽しむというスケールの大きさも、海に囲まれた小さな島国では実現不可能だ。

ところが、こうした欧米発の「バンライフ」をそのまま日本で再現できることがひとつだけある。それが旅を楽しむための自動車づくりである。

少なくとも「バンライフ」とは移動手段を兼ねるクルマがなければ、そもそもスタートすらできない。車両にはクラシックなキャンピングカーを利用してもいいし、予算がなければ普段使っているクルマを寝泊まりできるように改造したってかまわない。もちろん、市販の「キャンピングカー」と「バンライフ」を楽しむための車両にも厳格な違いなどない。

つまり、使用する車両はどんなクルマであっても構わないのだ。

もっとも、ここで紹介する1台の車両を見れば、「バンライフは、やっぱりこんなクルマで楽しみたいよね」と誰もが頷いてくれることだろう。

航空機のエンジニアとして活躍する吉岡浩司さんが、1年がかりで製作したという車両は、「バンライフ」ではポピュラーな存在のメルセデス・ベンツ・トランスポーター・T1・310Dだ。現行モデル・スプリンターバンのルーツともいえるこの多目的商用車は、日本国内でも商業利用されることが多く、現車は工具メーカーのセールスバンとして長く活用されてきた個体だった。

吉岡さんが手に入れた時は10年間も放置され、不動車という状態だった。吉岡さんはそんな車両を手に入れて内外装のクリーニングと不要な内装材を撤去、同時に機関系の修理を加えて車検を取得。防音・断熱材を挟み込んで木製のインテリアをこしらえた。

5人の子供たちが一緒に旅を楽しめるように車内にはスチール製の2段ベッドも造作。外装ではルーフキャリアやラダーまで自作して完成させたという。

「Cal vol.30 を見て、表紙になっていたトランスポーターに衝撃を受けたんです。バンライフにはどんなクルマが相応しいのか、明確な答えを手に入れた気がしました」と、オーナーの吉岡さんは語る。

「中古車を手に入れて、コツコツと自分の手でキャンピング仕様へと作り替えていくというストーリーにも影響されたました。本当に納得のできるクルマを手に入れたいならば、やっぱり自分の手で作り上げるべきだって」。

こうしてセルフビルドで作り上げられた車両は、約10ヶ月の歳月を経て、今夏完成したばかりだ。

今日、世界的に注目を浴びている「バンライフ」では、仕事をやめて旅をすることだけを楽しむフルタイムのトラベラーの姿が目立つが、吉岡さんは今もエンジニアとして働いている。休みは週末の2日間。長期で旅を堪能する計画もまだ立っていない。つまり、数多くの読者の皆さんと同じように、ライフスタイルやカルチャーとしての「バンライフ」を日本で実践するだけの環境にはないのだ。それでも、彼が楽しんだこの1年間は、「バンライフ」そのものだったといえる。自作のキャンピングカー製作は、間違いなく「バンライフ」の一部であるからだ。あとは、休みを見つけて、旅立つだけである。

PHOTO|KAZUTOSHI AKIMOTO
TEXT|KAZUTOSHI AKIMOTO
PUBLISHED|2021
SOURCE|Cal Vol.42
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